yoneyamaはiU(情報経営イノベーション専門職大学)を卒業するときに「タイパ」についてゼミの卒業研究を作っていました。
ゼミ生が各々の研究を発表する会では、「タイパ」について調べた人が一番時間をオーバーするという一番タイパが悪いことをしてしまいました。
卒業研究発表会の10分では全てお話しできなかったので、卒業研究で提出した「タイパ社会の生き方」の全文をこちらに残しておきます。
研究者でもないただの大学生の考え事ですので温かい目で覗いてみてください。
目次
1. 研究背景
1-1. 漠然と急いでいる社会の流れ
「無駄こそ人生最高の面白さ」と私は考えています。仕事、食事、キャリア、勉強、趣味、健康などさまざまな事柄が効率化されている現代社会。果たしてそれらのことが効率化され人類は幸せになったのだろうか。
私が幸せだと感じる時間や事柄に効率化された場面は一つもありません。むしろ寄り道をした事柄はまるで漫画の伏線のように後に回収され、幸せや成果につながっています。しかし人生の節々では「いい大学」や「いい就職先」などの最短で幸せになれると言われているレールに乗せようとしてきます。その違和感を常に感じていた。
1-2. シンプルな疑問「タイパとは?」
1-1を感じる中で、三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語 2022」の大賞にタイパが選ばれました。
タイパの意味は、三省堂国語辞典には
タイムパフォーマンス。時間的効率。能率。
新明解国語辞典には
タイムパフォーマンス。かけた時間に対しての効果(満足度)。タムパとも。
三省堂現代新国語辞典には
あることにかけた時間から得られる見返りや利益。時間効率。時間対効果。《由来》コスパにならって作られた語。なるべく時間を掛けずに、なるべく多くの見返りを得たいという現代的な発想が根底にある。
と説明されています。
一方でニュースやネットではタイパの例として、TikTokやYouTubeショートなどのショート動画、隙間時間で行くことができるchocoZAP、冷凍宅配栄養食のnosh(ナッシュ)、zoomやteamsなどのオンライン会議、仕事と動画コンテンツを同時に見るながら見、居酒屋ではなくコンビニで一缶だけ買い公園で飲むワン缶、など令和の消費行動の理由全てにおいてタイパという説明がされている印象があります。
そこで思うのが「タイパって何?」というシンプルな疑問。そんなシンプルな疑問から今回の研究は始まりました。
2,本文のゴール・目的
1-2 で述べたようにブラックボックス化しているタイパという言葉をさまざまな事例をもとに紐解いていきます。
まずはさまざまなタイパの事例をもとにタイパについての疑問を深掘りしていき、ある程度タイパについて発散された後に「タイパとはどのようなものなのか」を考察。
結果的には、タイパの手法・原因・目的を理解し、タイパの観点で令和の消費行動の考察を行います。
3,タイパとは
3-1, タイパというブラックボックス
タイパの説明は、かけた時間に対しての効果(満足度)と辞書で定義されています。
「タイパとは何か」を考える際にまずは「タイパがいい」とはどのようなこと・状態なのかを考察しましょう。
[事例1]は飲食店に関して。
[事例1]
Aさんはこれから夜ご飯を食べにいきます。徒歩5分のところには500円(500円の価値がある)の牛丼屋が、電車で50分のところには5000円(5000円の価値がある)の焼肉屋があります。タイパがいい夜ご飯はどのような夜ご飯でしょう。
辞書に書いてあるように[タイパ=満足度/時間]と定義し、単純に金額を満足度と捉えると、牛丼も焼肉も同じタイパになってしまいます。では近くの牛丼と遠くにある焼肉はタイパが同じなのでしょうか。
今回の計算では金額=満足度と捉えましたが、Aさんが焼肉よりも牛丼の方が食べたい気分だった場合は牛丼の方が満足度は高くなります。もし焼肉が美味しくてもその日の店員さんの態度がとても悪かったら焼肉の満足度は下がってしまいます。
[事例1]によって満足度という数値は、予測不可能な外的要因によって決められることがわかります。
[事例2]はコンテンツの消費についてです。
[事例2]
Bさんはジャーナリストの仕事をしています。Bさんはアニメが好きで見たい作品がたくさん溜まっています。アニメを見たいけれど仕事もしなければいけません。Bさんがタイパよくアニメを見て仕事をするためにはどのような行動を取るべきでしょうか。
例えば1時間の仕事を終わらせた後に、アニメを2本見ると所要時間は2時間になります。しかしアニメを見ながらゆっくり仕事を行うと、本来1時間の仕事が1時間半かかったとしてもアニメが1本多く見れるのに加えて所用時間は1時間半で済みます。
このような「ながら作業」は多くの人にも馴染み深い行動だと思います。電車に乗りながら漫画を読んだり、歩きながらラジオを聴いたり、食事をしながら動画を見たり。スマホの普及と共に「ながらOO」は一般的な行動になりました。
3-2, タイパの方法
以上の2つの事例でわかるように世間一般で言われているタイパをよくする方法は時間を短くしたり、満足度を上げたりとさまざまなアプローチがあります。そこで一旦「タイパの手法」について整理します。ここでの分類の分け方は株式会社人間のHISASHIさんの記事を参考に行います。HISASHIさんの記事ではタイパの手法を時短・凝縮・同時・自動の4種類に分類しています。
手法 | 説明 |
---|---|
時短 | 2時間かかるものを1時間に減らす(冷凍食品など) |
濃縮 | 同じ1時間でも摂取できる量を上げる(倍速視聴など) |
同時 | 2つ以上のモノゴトを同時並行で行う(ながら視聴など) |
自動 | もはや人の手を介さないで行う(ルンバなど) |
4つの分類を巷で言われているタイパの例に当てはめてみましょう。
サービス名・行動名称 | サービス(行動)概要 | 手法 |
---|---|---|
ながら作業 | 二つ以上のことを同時に行うこと | 同時 |
動画コンテンツの倍速視聴 | NetflixやYouTubeなどの動画コンテンツを速度を変えて視聴すること | 凝縮 |
ネタバレ消費 | 映画やドラマのレビューや内容を見る前に確認すること | ? |
ファスト映画 | 本来2時間ほどの映画やドラマを、字幕やナレーションをつけて要点だけを10分程度にまとめた映像コンテンツ | 凝縮 |
切り抜き動画 | 公開されているYouTube動画のワンシーンをカット(切り抜き)し、再編集された動画コンテンツ | 時短 |
炊飯器レシピ | 炊飯器だけでご飯やおかず、スイーツを作るレシピ | 時短 |
レンチンレシピ | レンジを使って食材を加熱するだけでできるレシピ | 時短 |
完全栄養食 | 栄養バランスのとれた食事を簡単に摂ることができる食事 | 凝縮 |
掃除ロボット | 自動的に床の掃除を行う機器 | 自動 |
chocoZAP | 隙間時間に気軽に通える「コンビニジム」という新しいコンセプトのジム。 安価な月額料金とスキマ時間に私服でも行くことができる手軽さから人気を得ている。 | 時短? |
タイミー | スキマ時間にすぐ働くことができ、すぐに給料を受け取ることができるスキマバイトサービス | ? |
パスタソース「パキット」 | 電子レンジに乾燥パスタとソースを入れるだけで簡単にパスタが完成する商品 | 時短 |
Lemon8 | TikTokを提供しているByteDanceによってリリースされたライフスタイルSNS | 凝縮 |
リモートワーク | オフィスに行かずに自宅や外出先から仕事をすること | 時短 |
web会議 | インターネットを使って遠隔地同士で会議を行うこと | 時短 |
chat GPT | テキストベースのAIとの対話を通じて迅速な情報収集やタスクの実行を行うこと | 時短・凝縮・自動 |
ワン缶 | 仕事帰りなどコンビニで一缶だけお酒を買い公園などで少ない時間飲むこと | ? |
タイパ=満足度/時間 なのであれば、タイパを良くするためには満足度を上げるか、時間を減らすかの2択になります。満足度を上げる方法は凝縮・同時、時間を減らす方法は時短・自動になります。
電子レンジだけで調理をするレンチンレシピやnosh(ナッシュ)などの宅配栄養冷凍食は時間効率が格段に上がっていると私も実感しています。
しかしタイパの例としてよく取り上げられるタイミーはどれに分類されるのでしょうか。普段のバイトでもタイミーのスキマバイトでも時給はほとんど同じです。
ファスト映画は分類上では凝縮となります。本来2時間ほどの映画やドラマを、字幕やナレーションをつけて要点だけを10分程度にまとめた映像コンテンツ。要点だけを見ただけで10分の満足度はあるのでしょうか。何に満足しているのでしょうか。そもそも何で見たい映画を倍速で視聴するのでしょうか。
また、タイパの事例として最近取り上げられている「ワン缶」。仕事帰りなどコンビニで一缶だけお酒を買い公園などで少ない時間飲むことです。このワン缶という行動は世代によっては「何がタイパなの?」と理解を得られない場合があります。
このようにさまざまな商品・サービス・行動を手法別に分けてもまだまだタイパについての疑問が出てきます。
3-3, タイパの始まり
3-2で分かったようにタイパの手法からだけではタイパの正体はまだわかりません。そこでタイパが始まった背景を考察していきましょう。
タイパという言葉はコンテンツの視聴方法でもZ世代向けの言葉でもなくビジネスや育児の用語言葉でした。言われてみればタイムマネジメントや時短など、時間に関する意識は前々からあります。
事例6は2013年5月の記事です。
通勤や移動の時間、そして打ち合わせの合間などの「スキマ時間」を有効に活用することで、タイムパフォーマンスは格段にアップする。
「スキマ時間」についての文脈で、カロリーメイトなどのバランス栄養食について書かれています。
事例7は2017年6月に行われた三菱UFJリサーチ&コンサルティングのセミナーパンフレットです。セミナーテーマは時間管理術、講師は有限会社ビズアーク 時間管理研究所の方が講師をされていました。
一方で、経済協力開発機構(OECD)の調べによると、日本の有償労働は363分とG7の中で最も長い。働く時間が長く、共働きも一般化する中で育児や家事における時短などタイパを考えることは至って理解ができます。
このようにタイパや時間を意識した行動は以前より行われてきました。ではなぜ2020年ごろから再度タイパという言葉が注目されたのか。
全ての理由は流れであり全てが繋がっているので「これが答え!」と断定はできませんが、強いて言えば理由は二つあると推測しています。
一つ目が情報過多による可処分時間の低下。
「タイパの要因はデジタルコンテンツが増えたからだ」と巷のネット記事では言われていますが、もう少し踏み込んで考察をしていきます。
みなさん朝起きてから寝るまでにどれだけの情報を触れているか想像してみてください。
アラームが鳴ると意識が朦朧とした中でLINEとInstagramをチェック、少しTikTokを見てベットから脱出、Netflixでドラマを見ながら朝ごはんを食べ、家を出ると、Spotifyで音楽や倍速のラジオを聞きながら歩いて駅まで向かいます、そして漫画を読みながら電車に乗り寝落ちをして起きたら駅に到着、そんな一連の流れの少しの隙間ではLINEの返信やInstagramのストーリーを見ている。誇張している風に聞こえる方もいるかもしれないがこのような生活をしている人は少なくないと思います。
「好きなことで生きていく」HIKAKINのCMが流れていた2014年からYouTubeの視聴者数は言うまでもなく右肩上がりとなっており、2023年時点でYouTubeの全世界のユーザー数は約2.5億人とされています。
コンテンツの数は2022年において、YouTube上に平均して毎分4,000本の動画がアップロードされていました。これは1時間あたり240,000本、1日あたり約5,760,000本、1週間に約40,320,000本、そして1ヶ月に約161,280,000本に相当します。
YouTubeだけでもこれだけのコンテンツがあり、それに加えてNetflix、Abema、TVer、Hulu、TikTok、Disney +と世の中のコンテンツ数は無限と言っていいのではないだろうか。
無限のコンテンツが現れた後、コンテンツの消費方法は二つに別れました。
1つ目が自分が好きなコンテンツを見る「推し」的な消費。自分の興味関心から発生する消費行動です。みなさんは自分の推しの動画を何回も見たことはありませんか?例えばディズニーが好きな人であればディズニーの映画作品以外にもメイキングビデオや裏側に密着したコンテンツも視聴する人がいると思います。何回も同じ映画を見たことがある人は少なくないと思います。この消費行動はコンテンツを見ている過程に意味があるのが特徴です。
そして2つ目が友達と話すためや世間の波に乗りたいという「実績主義」的な消費。私は小学校低学年の時は21:00には寝ていたので学校ではドラマの話題に着いていけなかった記憶があります。友達と話すためや世間の波に乗るための消費は、みなさんも想像できたり経験したことがある人もいるのではないでしょうか。このような「実績主義」的な消費は以前であればドラマをリアルタイムで見たり、親に頼んでゲームを買ってもらったりしていました。しかし今はあらゆるコンテンツが要約されていたり、倍速で見ることができます。最近では2時間の映画を10分で要点だけを知ることができるファスト映画が社会問題にもなっています。
稲田豊史さんの著書「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ ― コンテンツ消費の現在形」では映像作品のサブスクリプション化によって、1作品にかける金銭的コスト・時間的コストが減少した。それによって、映像作品を「鑑賞」することから「消費」することへと人々の意識がシフトしていったと書かれています。ファスト映画・ネタバレコンテンツが増えたから「鑑賞」が「消費」へ変わったのと同時に、その逆もしかりでコンテンツは「消費」するものと現代の人の意識が変わったからこそファスト映画・ネタバレコンテンツが増えたとも言えます。
そして「鑑賞」から「消費」への流れを加速させたのが「TikTok」です。TikTokには2つの特徴があります。
1つ目の特徴はアルゴリズムです。ユーザーの検索履歴や各動画の滞在時間、離脱箇所を徹底的に分析しユーザーの求めているコンテンツを無限に提供し続けます。
2つ目の特徴はTikTok特有のUIである「スワイプ」です。新聞の広告でしか情報を知ることができなかった昭和の映画館文化からYouTube Netflixなど自分の見たいコンテンツが調べれば見れる時代へとなり、TikTokは調べなくてもAIの力で自分の好みのコンテンツを見れる時代になりました。そんなTikTokは、ユーザーが見たいコンテンツだけをストレスなく見るためにスワイプというUIを採用しました。アプリを開けた瞬間からコンテンツが再生され1秒いや0.1秒でも自分の好みでなければ上にほんの少しスワイプするだけで次のコンテンツが始まります。YouTubeや Netflixのようにコンテンツの一覧画面がホーム画面ではないのです。自分好みのコンテンツの探し方は検索ではなくスワイプ。これによりコンテンツの提供者は「コンテンツは最初の1秒でつかめ」などバズる方法論が生まれ、消費者は自分が心地よくない0.1秒の間ですらを我慢できなくなってしまいました。TikTokのコンテンツが最初の1秒が大事になったり、倍速、図解、まとめにより間がなくなり時間が少なくなったことで、映画独特のセリフがないシーン(間)や長い伏線や言い回しは耐えることができなくなってしまいました。
話についていくために「読んだ」「見た」「知っている」と言う状態になりたい人にとっては推し消費特有の過程を楽しむことはいらないのです。早送りで見たいのではなく、安上がりにコンテンツを消費したいのです。
二つ目の理由は不景気による可処分金額の低下。
タイパの背景には時間以外にも「お金」の問題も潜んでいます。
正直こちらは研究中ですが、タイパの裏にはコスパがある。この事実だけは確信しています。
お金に余裕がない(可処分金額が低下している)と思考に余白が生まれず、全ての物事を最短距離や手っ取り早くこなそうとする行動に変化すると感じています。
こちらはまとまったらまた記事を更新していきます。
以上二つの背景を見ていく中で、タイパには二つの始まりがあることがわかります。ビジネス業界から始まった「時間術、時短、効率化」の文脈で使われ始めたタイパ。
そしてデジタルコンテンツの増加から使われ始めたタイパ。
そして二つのタイパが同じタイパという言葉で表されていることでタイパというブラックボックスが出来上がりました。最終的には世代間でタイパの認識がずれ、全ての事象がタイパという言葉でまとめられ、「結局タイパってなんなの?」となっています。
3-4, タイパを求める先
これまではタイパを求める前の段階「タイパの背景」について考察してきました。ここから少しずつタイパを求める先「タイパの目的」にも目を向けていきましょう。
人類が行う行動はほとんどが自分が幸せになるための行動だと思います。ではタイパを求めた先にはどんな幸せが待っているのでしょう。[満足度/時間]と定義されているタイパは、3-2での述べたようにさまざまなアプローチで満足度を上げようとしています。でもどうでしょうか「気づいたらTikTokを何時間も見ていた」こんな経験ありませんか?タイパの目的はなんなのでしょうか。
3-3で述べたように「時間術、時短、効率化」の文脈で言われるタイパの目的は想像しやすいです。多くの家事が「ヒルナンデス!」や「家事ヤロウ!!!」「伊東家の食卓」で紹介される時短テクニックによって短時間で済んだら幸せです。レンチンレシピや炊飯器レシピ、掃除ロボットを使う目的や理由は誰でもわかると思います。
しかし、デジタルコンテンツの増加から使われ始めたタイパは目的が分かりずらいです。先ほど挙げたように「朝起きで気づいたらTikTokを見て数時間経っていた」。本来タイパを意識するためと言われているTikTokを消費していたらものすごい時間が経っており、「タイパってなんだ?」と疑問に思ってしまいます。
2024/01/01にill.bellさんが「タイパ」というタイトルの楽曲を発表しました。
以下は「タイパ」の歌詞です。
待って 飛ばされないよう イントロでなんか喋るよ
てか15秒以上のイントロなんてもう いとも簡単にスワイプしてGood bye (Good bye Good bye Good bye)
だから念のため3秒で 曲の内容を要約しとくよ 「人生は短い」
たかだか15秒の動画すら耐えられない なら俺との会話はタイパ悪いんじゃない? コスパ タイパ 重視したいな って気持ちわかるよ ライフイズワンタイム タイムイズマネーなら ライフイズトゥーショート まるでシンキングタイムない クイズショウ
人生は短い 人生は短い 人生は短い 味わってる暇ない 人生は短い 人生は短い だけどそばにいたい だからそばにいたい
通勤通学中 スカスカで面白くもない動画 握り潰し飲みこむゼリーのようにギュッ ガンガン倍速 次々乗りこなす 情報過多 インフォメイションラッシュ どっちを選ぼうとしてもタイパ一緒 なら適当に合わせておくか タイプ相性 リスナーのみなさんの 貴重なお時間を プレイヤーが奪い合い
最短で分かった気になれる ファスト映画 だけどふたりで観たあの日の記憶 ふたつと無いな ラップスキル練り込んでる必殺のバース よりもインスタント•バズ なんて悲しいよな
「この曲1.5倍速くらいが丁度いいな」 て言われたときには さすがにちょっと嫌だったよ 嫌だったよ
年食って認知失って全身 針刺され 管まみれで わけ分かんねー意識の中で 飲まされる お粥 流動食 そうなる前に自分の手で 握り潰して 急いで摂取 あなたの有限の時間を 俺にくれてありがとう
人生は、短い (短い 短い 短い) 人生は、短い 人生は、短い だけどそばにいたい だからそばにいたい
アウトロの最後の一秒まで そばにいたいんだ
引用:https://youtu.be/hqwCgY7CqKY?si=4MUw7k3C09hCIp5J
この楽曲は「時間術、時短、効率化」の文脈ではない令和のタイパを上手に表現しています。
待って 飛ばされないよう イントロでなんか喋るよ
てか15秒以上のイントロなんてもう いとも簡単にスワイプしてGood bye (Good bye Good bye Good bye)
だから念のため3秒で 曲の内容を要約しとくよ 「人生は短い」
冒頭イントロの「スワイプされてしまう」や「飛ばされてしまう」という言葉からTikTok、「3秒で曲の内容を要約しとくよ」からは要約サービスflierが想像できます。
リスナーのみなさんの 貴重なお時間を プレイヤーが奪い合い
この歌詞からは、一生をかけても消費できないコンテンツがある中で、24時間をいう消費者の限りある時間を必死になって奪い合っているコンテンツ制作者の側面が見えてきます。実際に「縦型動画は最初の1秒が大事」とか面白い部分だけの切り抜き動画は多いですよね。
最短で分かった気になれる ファスト映画 だけどふたりで観たあの日の記憶 ふたつと無いな
ファスト映画や倍速視聴が主流になっている一方で消費者側は何か寂しさであったり虚無感は感じています。この歌詞から感じられることは、自分の可処分時間が自分の意思ではなく消えている、そしてそれに気づき謎の虚無感に襲われる。タイパの例で挙げられるTikTokや間をなくしたコンテンツの消費に目的はなく、AIと上手いこと作られたコンテンツによって時間を消費されているのだと思います。
これまではタイパには目的がないという側面を述べてきました。一方で目的が明確なタイパ消費もあります。
廣瀬涼さんの著書「タイパの経済学」では
コスパの追求で消費される物=満たしたい欲求を充足するもの
タイパの追求で消費される物=ある状態を生むために必要な手段
と書かれている。結論から言うと「ある状態を生むために必要な手段」と言うのは、人間は何者かになりたい、3-3で述べた「実績主義」ということです。
3-3では学校でのドラマを見ているかいないかで友達の会話についていけない状況を例に挙げました。その例を元にタイパの目的を探っていきます。ポイントはドラマを見ることが目的なのか、友達と会話することが目的なのかです。以上の例の場合、友達と話したいだけであり、そのドラマに興味があるわけではありません。したがってそのドラマのあらすじと名シーンと主題歌が分かれば大体の会話にはついていくことができます。
これがタイパの目的です。「〇〇について知っている」と言う状態になりたい。もう一歩踏み込むと、「〇〇について知っている」と言う状態を第三者に認めてもらいのです。
一旦整理すると、タイパの目的を知るために、タイパの背景を考察し、タイパ的行動をもとにタイパの目的を考察し、背景には承認欲求があるのではないか。今ここにいます。だいぶ効率性・時短とは違う遠い話になってきました。若者の承認欲求の話になると、背景には不景気やSNSによる社会問題の話題にもつながってきます。
何が言いたいかというと、若者がタイパを意識する理由はいくつもの要因があり「タイパって〇〇だよね」「タイパを求める理由って〇〇だよね」とは一言では表せないと言うことです。
3-5, タイパとは
ここまでダラダラとタイパという言葉を元に考察を行ってきました。一旦「タイパって何?」という話をタイパよくAIにまとめてもらいます。
タイパとは、現代社会において時間の制約や情報の過多によって生まれた消費者の傾向を指す言葉です。
タイパの特徴は以下の通りです。
- 時間効率性への追求: タイパは自分の時間を最大限に活用し、効率的に情報やコンテンツを消費することを重視します。時間の節約や効率化を目指し、要点を押さえた要約やファスト映画などの手法を利用します。
- 多様なコンテンツの消費: タイパは無限に存在するデジタルコンテンツを消費します。YouTube、Netflix、TikTokなどのプラットフォームを通じて、短時間で多くのコンテンツを見ることができます。また、自分の興味や関心に合わせてコンテンツを選択し、推しのコンテンツを何度も視聴することもあります。消費の方法には「推し主義的な消費」と「実績主義的な消費」のに種類があります。
- 承認欲求の一環: タイパは自分が最新のトレンドや情報に詳しいことを証明したいという承認欲求を持っています。友達や社会の流行に乗り遅れたくないという気持ちから、実績主義的な消費行動をとります。
- タイパの多様性: タイパの行動や目的は個人によって異なります。一部の人は時間を節約するためにタイパ的な行動を取りますが、他の人は情報を豊富に得るためにタイパ的な行動をとります。また、タイパの目的は時代や社会背景によっても変化する場合があります。
タイパは現代社会の変化に合わせて進化しており、時間の効率化や情報の消費方法に関して様々な議論が行われています。
タイパの存在は、一方で効率的な時間管理や情報の取捨選択が可能になったことを示しています。しかし、同時にタイパの追求は不幸への入り口とも言えるでしょう。
一つの時間枠でできるだけ多くのことを経験しようとするあまり、深い思考や継続的な取り組みが犠牲になることもあります。10年後振り返ってみた時に、このタイパを追求した10年間は何の記憶も思い出もなかった、、なんてことになるかもしれません。
また、タイパは二つの時代があります。一つは時間効率ビジネス時代であり、もう一つはZ世代コンテンツ消費時代です。どちらもタイパという同じ言葉で表されていますが、その意味や目的は異なる場合があります。
時間効率ビジネス時代では、ビジネスパーソンや働く人々が限られた時間の中でできるだけ多くのことを成し遂げるために、時間管理や効率化を重視します。一方、Z世代コンテンツ消費時代では、若者たちが情報やエンターテイメントコンテンツを効率的に消費することを追求します。
このように、世代によってタイパの意味や追求する内容が異なることがあります。タイパを意識した先には何があるのか、タイパによって生まれた時間は趣味や他のやりたいことに当てられているのだろうか、「タイパを意識しているはずのTikTokを気づけば何時間も見ていた」こんな経験はないだろうか。
また、タイパの追求にはコスパの視点も含まれます。例えば、ワン缶のみという縛りがある飲み物の消費行動は、お金がない背景やコスパを考えていることを示しています。タイパは自分が好きな飲み物を揉むことができるという自由さや、縛りが楽しむ要因にもなっています。
しかし、タイパの追求は必ずしも幸福をもたらすわけではありません。タイパの追求が主体となることで、他の価値や経験の深さが見落とされることがあります。タイパは一時的な快楽をもたらすかもしれませんが、10年後に振り返った時に何も残らないという結果にもつながるのです。
タイパとは、一言で言えば時間効率性やコンテンツ消費の追求を指す言葉ですが、その背景には個人の欲求や社会の変化が影響しています。タイパを意識することで、自分の時間を効率的に使いたいという欲求が表れます。一方で、タイパの追求が過剰になり、生活の充実や深い思考、人間関係の構築などが犠牲になることもあるのです。
タイパは現代社会の一部として存在しており、その意味や目的は多様です。タイパを追求する理由や方法は個人によって異なりますが、大切なのは自分自身の幸福や充実感を見失わないことです。タイパの追求によって失われるものを見逃さず、バランスの取れた生活を送ることが大切です。
以上が、「タイパってなに?」という疑問に対する詳しい解説です。タイパは私たちの生活において一つの要素となっており、その影響や意味を理解することで、より充実した生活を送ることができるかもしれません。
4, タイパから見る令和の行動
3章まででタイパとは何かが少し見えてきたと思います。ここからはそんなタイパ側からさまざまな行動を見ていこうと思います。
4-1 ビジパ族の誕生
最初にタイパという言葉が生まれたのはビジネス業界。世間では時短という言葉が流行り始め、ビジネス業界にも時間術は流行り出してきました。そしてコンテンツが溢れる時代になり「〇〇2.0」「〇〇力」「〇〇の教科書」などさまざまなビジネスネタがパッケージ化(体系化)されてきました。そこで現れたのが、「ビジパ主義=ビジネスパフォーマンス主義」です。
ビジパ族の特徴は「想像ではなく模倣する」ことです。インプットしたものを自分で噛み砕き思考するのではなく安上がりに何かを行ったり得ようとします。これは悪いことでなく、日本の多くの会社が社員にタイパを求める傾向にあります。何かを指示された時に無限にある小さなタスクを脳死で機械的に行って欲しいのです。
ビジパ向けサービスもたくさんできました。1つ目のビジパ向けサービスはflierです。flier(フライヤー)は、さまざまな本の要約を提供するサービスです。このサービスでは、各書籍の重要なポイントや内容を10分程度で読めるように要約しています。ビジネス書を中心に、多くのジャンルの本が取り扱われており、忙しいビジネスパーソンや多忙な日々を送る人々にとって、効率的に知識を得る手段として利用されています。このサービスを通じて、読書にかける時間が限られている人々でも、短時間で幅広い知識を吸収することが可能になります。
flierなどの要約サービスは「実績主義」的な消費を後押ししました。振り返ると営業マンなどはさまざまなお客様と仲良くなれるように「多趣味になれ」という話は前からよく聞きます。その本に書いてある本質的な理解を得ようとしているのではなく、あるトピックについて少しの知見が欲しい人にはぴったりのサービスです。「私マーケについて知ってます」という状態になりたい人にはぴったりのサービスです。
2つ目のビジパ向けサービスはエンタメ化されたビジネスコンテンツです。flierなどの要約サービスと同時に、NewsPicksや令和の虎などのビジネス系のコンテンツもかなり増えました。今まではネットの記事やニュース、本でしか発信されていなかった情報が映像コンテンツとなりました。YouTubeのコンテンツもポッドキャストのコンテンツも耳だけでも聞くことができ、倍速視聴もできるのでとても便利になりました。
過去の創造物をパッケージ化した本を読むことはとてもいいことですが、幻冬舎編の集者である箕輪厚介さんも「本は自分の経験の答え合わせ」というように自分の中でしっかりと噛み砕くことで意味をなすと思います。
4-2 恋愛はタイパ悪い?
友達とタイパについて考えた時に最初に出た仮説が「誰かと関わっている時点でタイパ悪い説」です(笑)。これは、相手のことを考えると必ず自分のタイパが下がるのではないかという仮説です。
A君とBさんは付き合っています。A君の家は埼玉にあります。Bさんの家は横浜にあります。A君とBさんは週末にディズニーランドに行く予定です。
このような例があるとします。まず集合からタイパ悪いです(笑)。どのように合流をしても直でディズニーランドに行ったほうが早く着きタイパがいいです。そしてディズニーランドの中は人が大勢います。そうなると、乗り物一つ乗るのにも1時間かかります。多くの人とやりたいことが被ると時間が大幅に遅れてしまいます。実際の例としてディズニーに行っても園内のカフェでずっとお話をしているグループも最近は多いそうです。
この2人がもし仮に、家が真隣で同じ電車に乗って同じドラマを見ながら少しもストレスなく行くことができたらタイパはいいのかもしれません。
しかし、誰かと行動する上では妥協や意見の食い違いは当たり前に起きます。タイパを意識するのであれば人と関わること自体がナンセンスなのかもしれない。
実際に落合陽一さんは番組で「タイパを追求したいのなら死ねばいい」と発言していました。結局は生きている限り人は人と関わるわけであってそこにタイパを求めすぎてはいけないのかもしれない。
4-3 ワン缶 縛りという新しいタイパの手法
缶のお酒を一本ずつ買い公園などで軽く飲み帰宅する飲み方、それが「ワン缶」です。このワン缶、タイパの手法に当てはめるとしたらどれに分類されるでしょうか。
手法 | 説明 |
---|---|
時短 | 2時間かかるものを1時間に減らす(冷凍食品など) |
濃縮 | 同じ1時間でも摂取できる量を上げる(倍速視聴など) |
同時 | 2つ以上のモノゴトを同時並行で行う(ながら視聴など) |
自動 | もはや人の手を介さないで行う(ルンバなど) |
時短を意識するのであればわざわざ公園でなくても居酒屋でも十分です。ではなぜタイパ的文脈でワン缶が語られるのでしょう。ワン缶には新しい手法”縛り”があるのではないかという仮説が浮かびました。このワン缶、どこかリモート飲みと似ている雰囲気を感じました。何かの制限があるからこそ楽しめる、普段あらゆる行動がコンテンツにより繋がり始まりと終わりが意識しずらい世の中で、あえて「この一缶で終わり」という砂時計があることで心地よい飲み体験を生み出しているのではないでしょうか。
その他の背景には3-3で述べた可処分金額の低下も関係があると推測できます。ワン缶のみは最近始まったことではありません。最初に流行り始めたのは数十年も前の話、当時のアパレル店員が退勤後に少ない収入が理由でコンビニでお酒を買いのみを楽しんでいたことがあります。
現代のワン缶が流行っている背景にも可処分金額の低下が関係していると推測できます。
5,タイパ社会の生き方
第1行目に「無駄こそ人生最高の面白さ」と書きました。私は無駄や余白から生まれる偶発的な偶然に出会うことを楽しみに生きています。だからこそ、知らない街を散歩したり、気になったカフェに入ってみたり、そこでの人とのつながりにほっこりしたり、そんな人との繋がりが新たな偶然を引き起こしたり、そんな暮らしをしています。
好きで乗っていたLUUPをツイートしていたら偶然にもテレビに出ることができ、LUUPのアンバサダーを半年間やっていたり。
色々なカフェに行くことが好きで、好きなカフェに行っては内装の写真を撮っていると、気づけば自分がカフェの内装を作る側にまわっていたり。
人はこのようなことを偶発性理論やConnecting the dotsというかもしれない。
お笑い芸人のとろサーモン久保田さんとウエストランド井口さんが最近のお笑いに関して対談を行っていました。デジタルコンテンツが増えていく中で面白いネタをたくさん見れるからこそ、全く面白くない人はいない。だけれども教科書通りで個性がある人が少なくなったと。
最初の研究背景でも述べたようなパッケージ化された最短距離でタイパを意識してしまうと、何か個性がなくなってしまう気がする。窪田さんの言葉を借りれば「教科書を見すぎてしまうと、個性がなく人間味を感じなくなってしまう」
タイパを意識せずに偶発性を意識した暮らしは案外コスパがいいのかもしれない。
そんなことを感じながら、私はYouTubeを見ながら行っていた卒業研究を書き終える。